「聞き書き講座 inことぶき~聞かせてください、あなたの人生」を開催しました
感染防止策を講じた上で
2月22日(土)「聞き書き講座 in ことぶき~聞かせてください、あなたの人生~」を開催しました。
新型コロナウィルスの感染拡大が懸念される中、参加者の方々には徹底した手指消毒とマスクの常時着用をお願いし、会場内においても参加者同士が接近しないように工夫した上で開講となりました。
本講座では、作家で聞き書きの第一人者でもある小田豊二さんを講師に招き「聞き書き」の面白さや、聞き手に求められる技術や語り手に対する姿勢について、ご指導いただきました。

聞き書きとはなにか
講座前半は『聞き書きとはなにか』をテーマに講義していただきました。
小田さんが大学で聞き書き講座を行った時のエピソードです。
学生さんが、おばあちゃんから聞いた話を冊子にして渡すと、おばあちゃんは涙を流しました。
この涙のわけは何でしょうか?
おばあちゃんは、完成した本を受け取ったことで「ああ、もうこの子はここに来ないんだな」「もっと私の話を聞いて欲しかった」という別れの寂しさに泣いてしまったのです。
そのくらい「話を聞く」ということは、コミュニケーション…信頼関係の構築になるのです。
聞き書きにとって一番大切なことは、語り手といかに親しくなるかということ。
小田さんの話は続きます。
語り継がれることのない、それぞれの人生という物語。
しかし聞き書きによって、そのひとが亡くなっても物語は生き続けることができます。
古事記も、論語も、福音書も、「聞き書き」です。
権力者の歴史である年表や、富裕層が新聞記者に書かせる自慢話とは違う、「話し言葉」で庶民の歴史はもっといきいきとしてくる。
「聞き書き」を初めて学ぶ方には分かりやすく、既に実践されている方には目の前のモヤがぱっと晴れるような、素晴らしい講話に参加者は熱心に聞き入っていました。


「聞き書き」には①聞く、②書く、③本にするの3ステップがあります。
その最初のステップ「聞く」について、小田さんは次のように語ります。
「聞き取り」は、こちらが聞きたいことを聞くもの。
対して「聞き書き」は、相手が話したいことを聞くもの。
では相手が話したいことを引き出すためには、どうすればよいのでしょうか?
それには、目に見えない「薬箱」が必要なのです。
聞き書きに大切な言葉の薬箱
小田さんは、この「薬箱」には「言葉」という薬が入っているといいます。
ある人に効く言葉の薬が、別の人には全く効かないということもありますが、比較的誰にでもよく効く薬もあります。
それは両親のこと、大晦日やお正月の思い出、子ども時代の遊び、昔の歌、あそび歌など。
小田さんが故・小沢昭一さん(俳優)を聞き書きした際にお出しした薬は「東京音頭」の替え歌バージョンだったそうです。
その時の様子を、まるで小沢昭一さんが乗り移ったかのように小田さんが再現してくださいました。
ほかにも、味わい深い逸話の数々から、薬を当てる想像力、「聞く」力の奥深さについて、笑いあり唄あり感動ありの講話となりました。


実践講座で会場が一体に
講座の後半は『「聞く技術」の基本をつかむ』。
見えない薬箱から「言葉」の薬を選ぶ方法についてご指導いただきました。
その指導を踏まえながら、二人一組になって行ったロールプレイ。
ひとり7分ずつ、聞き手と語り手に分かれて話を聞き合ったのち「私の子ども時代」を皆の前で本人(語り手)になりきって発表しました。
回を重ねるごとに、なりきり(ロールプレイ)度は増し、薬箱から取り出された「時代背景」「流行歌やアニメ」「学校の靴箱」「学習塾」などの言葉をとおして、当時の友達や両親の表情、風景までが鮮やかに甦りました。
初めて会った方と7分間話しただけでも、ずっと前から知っていたような気持ちになれる。
聞き書きの持つ魔法を体験することができました。

寿のまちで「聞き書き」を
講座終盤。
小田さんへの質疑応答を経たのち、ことぶき協働スペースから「聞き書き」をとおして私たちにできることを提案させていただきました。
題して「寿・人生カタリバ」。
寿のまちに住み暮らす方々から人生を学ぶ場を、聞き手も語り手も幸せに豊かになる場を。
そこで生まれた共感が生きがいにつながり、介護予防や健康増進にも発展するような素敵な取り組みになればと願っています。
次年度も継続した学習と聞き書きが実践されることを期待されつつ、本講座は終了しました。
小田さんならびに参加者の皆様におかれましては、マスクを着用したままの会話に息苦しい場面も多々あったことと思います。
ウイルス感染防止対策にご理解とご協力をたまわり、誠にありがとうございました。
またのご参加をお待ちしております。