まず、自分の弱さに気づくことから ~小さな声を社会化し、協働の力につなぐために~

 寿地区に暮らす人々、働く人々、その真実を表現する人々、そして、当事者への伴走支援に取り組む人々に教えられて、少しずつではあるが、このまちで「協働」を目指すことの意味が分かりかけてきた。組織論ではなく、一人一人の生き方やいのちを守る営みとしての「労働」に深い敬意を持てるかどうか。社会や組織や家族からの孤立を求める人が抱く希望や諦念や苦悩を、それは「私だったかもしれない」と懐奥深くで想い描けるかどうか。背景や立場の異なる主体間の「協働」を語るには、その土台として、私たち個々人の自己省察の姿勢が問われていることに気づくことができたと思う。

 このひと月、私たちは、路上生活を選ばざるを得ない人と共にいのちの重みを分かち合う活動について入り口の学習に臨んだ。「路上生活に至る人・支援する人に学ぶ共生・協働」を自学テーマとしてスタッフ間で人権教材のDVDを視聴し、「差別を生む(わたしのココロ)の壁に気づく、差別を生む(わたしのココロ)から一歩すすんでみる」グループワークを行った。各人が持つ心の壁に向かい合いつつ対話を重ね、地域の支援者のレクチャーを受けて路上パトロールに参加した。また、かつてノンフィクション作家やルポライターが表現した路上生活者の現実に思いを馳せ、社会と個人の関係についてスタッフそれぞれの考察を共有した。

 路上の現場でも、読書をとおしてでも、楽を求めがちな私たちには到底真似のできない果敢な生き方に出会えたことを幸運に思う。路上生活でいのちを自ら守る数々の選択や行動は、尊い「労働」として捉えることができる。心身ともに過酷な状況に耐え抜く人が教えてくれたのは、社会や人との距離の取り方や極限の状況で浮かびあがる優しさの本質である。また、この出会いは、寿地区で支援活動を続ける官民双方との縁から生じ得たことに感謝している。常に当事者とともに在る信念が温かい眼差しとなり、社会的孤立に至らしめない同志に近い存在へと変化していく。

 当事者とともに在り、共に考えできることを求める中で私たちは当事者同士の輪を広げられる。その過程を地道に歩むことこそ、NPOの存在意義であると思う。それは、様々な場面で社会の矛盾に苦しむ人に学びながら、「私の一歩から私たちの一歩」へと歩み出すことにもつながっていく。

 福岡・北九州市で路上生活者とともに歩む「認定NPO法人抱樸」の活動は、一人一人の一歩の重みを社会に問いかける活動の一つである。「個人や家族に任されすぎた役割を、みんなで分担していける社会をつくる」ことを広く世の中に提案している。

 「自己責任」という言葉が横行する社会でなく、誰もが「助けてと言える社会」へ。

 一人の思いや一NPOができることに限りはあっても、連帯は大きな力を生み出す。「抱樸」の活動は、地域や社会の多様な主体の力をつなげ、伴走型支援の価値を高める試みである。連帯の輪を広げ、価値を高めていくときに大切な視点は何か、理事長の奥田知志さんが多くの識者と語りつなぐ対談の場面で、伴走支援の原点ともいえる視座を学ぶことができた。

 「大切なのは自分の中の弱さに気づくこと。弱さを共有することによって人は深くつながることができる」

 そう語っていたのは、このNPOの支援者の一人、詩人の若松英輔さんである。私たちが、路上生活を選ぶ人に話しかけるとき、自分の弱さへの自問を重ねることができれば、つながることに意味を深められるのではないか。私たちが目指す多様な力の結集としての「協働」、組織間のつながりにおいても然りかもしれない。私たちに足りないこと、できないことを見つめなおし、教えていただけることに謙虚に学び、互いの力を活かし合える関係を築いていきたいと思う。

 いつの世にも、理不尽さに耐える人がいる。声を挙げていかねばならないことが見えにくく隠れていることもある。今この時も、不安や恐怖におびえる環境下の人がいる。児童虐待、障害のあるなしや国籍の違いゆえの不当な差別、過労死や過労自殺を生む過酷な環境、ネット上での誹謗中傷、そして地球規模の難民問題や紛争に巻き込まれる人々…。

生きた心地のしない場から逃れることができずに苦しんでいる人々の真実に近づいていきたい。また、終戦の日から75年の記念日を迎えた8月、未来に語り継いでいくべき、多くの一人一人の数えつくせぬ無念も忘れてはならないと思いを新たにしている。

 2020年が始まってこの半年、私たちは未知の脅威にさらされることとなった。新型コロナウイルスを介して差別が生まれる社会の無念に負けることなく、共に力を合せる連携のありがたさも経験している。救えるいのちが見放されることがないように協力していかなければと思う。一人一人の思い、その不安や絶望にいかに寄り添えるか、見失いがちな自己の弱さを顧みながら、小さな声を社会化していくために協働の取組みを深化させていきたい。寿地区の住民とともに、そして地域を超えた多様な主体とともに。