『横浜ストリートライフ』が問いかけるもの  ~なか区ブックフェスタ参加企画「ストリート展」に寄せて~

佐江衆一 著『横浜ストリートライフ』
佐江衆一 著『横浜ストリートライフ』

 10月29日、『横浜ストリートライフ』著者の佐江衆一さんが86年の生涯を閉じられました。
ノンフィクション・ノベルに位置付けられるこの本を始めとして、多くの社会派小説をとおして社会のあり方、人と人との関わりを描いてこられた佐江さんに、心から感謝し、深く哀悼の意を表します。


 1983(昭和58)年、佐江さんが横浜市寿町の簡易宿泊所に寝泊りしながら取材したのは、前年12月から年明け後2月にかけて起きた事件、世の中を震撼させた「横浜浮浪者襲撃殺人事件」の背景や問題の本質を追うためでした。
 横浜市内の地下街や公園に住まいを求めたホームレスへの暴行・殺傷。その犯人が中学生を含む少年のグループであったことを、社会がどうとらえるのか、私たち大人の責任は何か。被害者男性が住んでいたという寿地区や犯行現場の公園で出会った人との多様な心の交流をとおして、世に問いかけてくださいました。

 出会えた人との関係を築く過程で、路上で暮すことを選んだ人の表情や言葉に、命を守るぎりぎりの環境下で耐えるしなやかさを、決して人を傷つけない奥深い優しさを、見出していきます。
 その人格や風格から「山下公園のヘミングウェイ」として登場するのは、被害者須藤泰造さんの同志ともいえる永井徳治郎さん。公園で途方にくれている流浪者を、家出してきた少年を、然り気なく面倒を見てきた「山下公園の園長さん」のような人。横浜に十数年ぶりの大雪が降り積もった朝、凍死という、誰にも頼らないただ独りの旅立ちで永井さんはこの世を去りました。安らかな最期の顔だったと記されています。

 佐江さんは遺影をたずさえ山形へ。鳥海山を目前にした永井さんの故里の山河は、懐深く仏様を迎えてくれたとのラスト場面に、佐江さん自身の生命の敬意、大切な人とともにある魂の共振を感じることができます。


 佐江さんは、路上の人、野宿する人とともに、その人間像に魅力を感じるカメラマンと問いを共有していきます。また、事件の背景にある少年たちや教育や親世代が抱える問題について、ともに考えさせてくれます。そして、少年たちの残虐さは社会や教育を語る評論素材ではなく、誰の心にもある他者を排除する弱さに通じること、そこに、事件報道では見えなかった社会の本当が語られていきます。


 華やかな都市横浜が合わせ持つ「光と影」。その影を浮かびあがらせる「ストリート」。そこで交錯する立場の異なる人々の思い・出会いが私たちに問いかけるものとは何か。
 なか区ブックフェスタにおいて、「ストリート展 -廻る 宿る 越える-」を企画したことぶき協働スペース、お薦めの1冊です。佐江さんの魂は、これからも社会のあり方を問うすべての人の心に届く、届き続けると信じています。

 佐江衆一さん、ありがとうございました。