農福連携の可能性

11/6「ノウフクマルシェ」チラシ
11/6「ノウフクマルシェ」チラシ


 ノウフクマルシェとは、日本各地から「農業×福祉」で作られたノウフク産品が集まる催しです。主催は、一般社団法人日本基金(農福連携は農林水産省農村振興局担当)。

 先日参加した「ノウフクマルシェ」のいただいたパンフレットの中に、農福連携に関わる非常に興味深い内容がありました。ある事業団体が行ったトークイベントに、農福連携とともに更生支援につながる「協働」のヒントを得ることができました。
 講師としてお話しされたのが津田塾大学客員教授(元厚生労働事務次官)の村木厚子氏。「地域で暮らすために」と題した村木さんのお話の中から、特に印象に残った言葉をご紹介します。

 

 「“累犯障害者”とは、無銭飲食や窃盗の罪を重ねて刑務所への入出所を繰り返している障害者(主に知的障害者)のある方達のことで、この事業所では、スタッフがサポートをする形で彼らに農業に従事する機会を創出してきました。農福(農業と福祉の合体)として障害のある人が農業に従事でき、彼ら自身も地域を助けるという相互環境のある場所、また、刑務所に入った経験のある方を受け入れ、一緒に働くことができるようにするという事業団体は、全国にも例が非常に少ないように思います」
 村木氏は労働省勤務時代から入所中の障害者にも外国人にも力があることに気づき、「生きづらさを抱えている、福祉の仕事を必要としているが人がここにいる」と感じていたそうです。そして、特別の事情のため、2010年に復職してから生活困窮者の仕事をする機会があり、彼らには「難しい問題が複数重なった人」「社会から孤立した人」の二つの共通点があることを知ります。そこで、「居場所を整え、仕事を作る」(労働省内では「居場所と出番が大事」と言うそうです)こと、「支えるために地域でできること」の大切さから、農業とつながるのです。

※村木厚子氏は1978年に労働省(現厚生労働省)入省し、女性政策、障害者政策などに携わり,2009年の郵便不正事件において逮捕され、164日間に渡り拘留。2010年に無罪が確定。復職されてから社会・援護局長、そして厚生労働事務次官を歴任している。



 農福連携の基本は命の根源である大地・植物など自然に接しながら癒される場として、また、就労を通じて地域社会と深く結びつくことにより、当事者の社会参加、所得保障を後押ししていくことです。村木氏は「農業はゆっくりと物事が進み、産業としての懐が深いのでそこに救いの部分がある、希望をもっていけるもの」と語ります。

 農林業の6次産業化と言われてから久しくなりました。これは、1次産業としての農林業(栽培)と、2次産業としての製造業(加工品)、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、農山村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組です。これにより農山村の所得の向上や雇用の確保を目指しています。横浜市では青葉区・緑区などで里山(近隣の高度の低い林野)保全として作業を行っている団体もあります。また、果樹や花卉類(花)も農業分野です。それらすべてが今は6次産業化されていることを考えると、受け皿としての裾野はとても広いのではないでしょうか。就労の場(出番)として考えてみても、作物の栽培からネット通販までさまざまな職種も考えられます。

 村木氏は「一方で、そのような就職先に合わない人がいる可能性も排除できず、彼らにも仕事の選択肢の準備、つまり横のつながりを築く努力が必要だ」との視点を示されています。知的障害者の就労について一つの例があります。それは、外国車の高性能の部品を作る工場を村木氏が見学した際のことです。健常者と障害者の区別ができないくらいに皆仕事のできる様子を目の当たりにします。そして工場見学の最後、奥にある3畳ほどの部屋にランニングにステテコ姿であぐらをかき、グリンピースの皮をむきながら豆を取り出す作業をしている方に出会いました。雇用主は村木氏に言います。「この人が新入社員ですよ。いずれ、先ほど工場で見たような人になるんです」と。
 「知的障害者は《ゆっくり学ぶ人》と言います」と語る村木氏。「それを知り、彼らにつきそうサービスや雇用主がいれば、仕事ができるようになる。なかでも、農業にはいろいろな仕事があり、必ず、その過程の中で個々に合った仕事を見つけられるので大きな可能性があります」とも。そして、私たちが当事者とともに歩むときの大切なポイントを示してくださいました。それは「《人の自立、尊厳やプライドを大切にできるかどうか》また行政がどれだけ支援しても最後は隣の人や家族、友達など《つながりの再構築》が重要、すなわち《創造的な支援》でしょう」


 横浜市役所の中のカフェ「マリンブルー」をご存じでしょうか。障害者が真心を込めて作った軽食が味わえる「農福連携」の現場の一つです。バタフライピー(蝶豆)の花から抽出した自然染料からできた青いパンを使ったサンドイッチはお勧めです。




 ことぶき協働スペースでは、「農福連携」を考えるチームをつくっています。先日、都筑区で農福連携の活動をしている「都筑ハーベスト」を視察し、意見交換の機会をもつことができました。そこで、「健康野菜」や「花卉類の栽培」について質問させいただき、関心と実践との間に、簡単にはいかない現場の悩みがあることを知ることができました。協働には時間をかけて相手を理解することが大切だということ、障害者のことも作業所のこともまだまだ勉強不足だということを認識できた視察でした。 

都筑ハーベスト、見学
都筑ハーベスト、見学

 
 農福連携や居場所づくりを考える「協働スペース」の一員として、村木さんの最後の言葉は大きな支えとなります。

「人間は励まされるだけでは元気になれない。励ます行為で元気になる。自立というのは、人に依存しないということではない。自立はたくさんのものに少しずつ依存するようになること。障害のある人や刑務所から出てきた人にとって大切なのはたくさんの《手》だと思っています。ぜひ、これからも人が見にきてくれるような活動を続けて下さい」