【EVENT REPORT】トム・ギルさんをお迎えして

社会人類学者のトム・ギルさんをお迎えして、ご自身が執筆された書籍「毎日あほうだんす 完全版: 横浜寿町の日雇い哲学者 西川紀光の世界」についてトークライブを開催しました。

環境が動物に対して与える、提供する意の「アフォーダンス(affordance)」。

寿のまちに住んでいた西川紀光が「毎日アフォーダンスだよ」と言ったのを「毎日阿呆ダンスだよ」とトムさんが聞き間違えた出来事が、本書のタイトルに繋がりました。

トムさんは学生時代の2年間のフィールドワークを通して「非常に個性の強い男」西川紀光に出会います。友人、哲学者として、尊敬の念を抱きながら取材した22年の記録は、紀光への聞き書きを軸として構成され、聞き書き前のエピソードや聞き書き後の紀光の人生や家族からの証言も加わった完全版として今年、再販されました。

生活保護を含む社会福祉の制度が、現代日本社会の「アフォーダンス」の一因であることを考察し、紀光の視線から日本社会を看破する「一人民族誌」は、横浜トリエンナーレ2020のソースにもなりました。

トークライブの前半60分では、寄せ場の男性たちや、野宿者の自立について研究してきたトムさんによる、紀光を取り巻く時代背景や、紀光とのエピソードを、著書に沿って講演。

欧米と日本のホームレスには大きな違いがあり、欧米のホームレスは月1回は家族に電話し、何らかの形で親、兄弟と関係を持つが、日本のホームレスの多くは家族との関係は無く、会うことができない、とトムさんは言います。

後半30分、スタッフも聞き手として加わった質疑応答の時間では、紀光の証言のエピソードをひとつひとつ補足、解説してくださいました。

田舎の長男が家を継ぎ、留まることを期待される日本の伝統的な家族システムから逃避してきた「長男」が寿町には多く存在します。紀光は「無責任な長男」という自覚から肉体労働をすることで自身を罰していました。自衛隊を経た後の横浜での港湾労働生活、中沢新一、コリン・ウィルソンやエリック・ホッファーらへの憧憬、冗談を交えて陽気に自身の弱さを話す紀光の哲学を思う存分に語らいました。

「聞き書き」の手法を用いて一人の男性生活者と親交を深めたトムさんから学ぶ寿の男性史は、本イベントの企画趣旨である「ストリート」を考える上で貴重な学びの機会となりました。

トム・ギル著『毎日あほうだんす 完全版』(キョートット出版)

トム・ギル(Thomas Paramor Gill)

1960年英国生。ロンドン大学博士(社会人類学)。現在、明治学院大学国際学部教授。

25年以上にわたり日雇い労働者・ホームレスを調査。著作・論文にMen of Uncertainty「寄せ場の男たち:会社・結婚なしの生活者」「日本の都市路上に散った男らしさ―ホームレス男性にとっての自立の意味」など。また、福島原発事故被災者調査を行い共著『東日本大震災の人類学』を編集。2015年には本書英語版”Yokohama Street Life”を出版。