【イベントレポート】「地域定着の出口と入り口を広げる 〜私たちは、なぜ、罪を犯した人を支援するのか〜」更生サロンvol.1 を開催しました

開催趣旨

 更生サロンは、前年度開催の「更生支援セミナー」を継続する形で、更生に関わる施策や民間の取組についてテーマを基に対話を重ねる場です。第1回サロンは、神奈川県地域生活定着支援センターとの共催企画として、「地域定着の出口と入口を広げる~私たちは、なぜ、罪を犯した人を支援するのか~」をテーマとしました。

 横浜市で2020年3月に「横浜市再犯防止推進計画」が策定されたように、国や自治体が進める更生支援・再犯防止推進の政策があり、また、各地域や機関が進める連携支援の取組があります。罪を犯した人を地域や社会にどうつないでいくのか、支援現場の実情と課題を情報交換し、私たちが連携・協働してできること、それぞれができることを対話をとおして考えます。

 

ゲストのご紹介

 山下康さんは、横浜市のケースワーカーとして長年勤務され、寿地区や人々への愛着が深い方です。現在、神奈川県地域生活定着支援センターのセンター長として司法と福祉の連携をコーディネートする一方、社会福祉法人かながわ共同会の理事長に就任され、県内の障害者施設の運営に尽力されています。また、日本社会福祉士会や、神奈川県社会福祉士会の理事として、地域定着支援において要の専門職である社会福祉士の人材育成や研修に努めておられます。
 

第1部:山下さんのお話

◆刑務所の福祉施設化の現実

 刑務所から出所した障害のある人に福祉支援が届かない背景として、刑務所に戻ることを志願する複数の事例が紹介されました。累犯に走る人が刑務所に戻りたいと考えるのは、勾留が繰り返されることにより、社会との距離が開いてしまうことも一因です。地域や社会の福祉支援でなく、刑務所が福祉施設化してしまう現実には、孤立感や深い生きづらさがあることが示されました。

 ある70代前半の男性は、寝たきりの認知症で刑務官に暴力をふるっていましたが、刑務所に住民票を設定し介護保険を申請後、介護度が出たため特別養護老人ホームでの生活につながりました。刑務所での面接は車いすであったその方は窃盗を繰り返すうちに受刑が長期化した経緯があった中、新しいホームに入所後の1週間後には立ち上がり、つかまり立ちができるようになり元気に過ごしているとの事例です。また、80代後半の全盲で人格障害のある男性は、6回の受刑歴がある人でしたが、つないだ老人ホームでの暴力等に丁寧に対応する中、信頼できるスタッフができたことで、健康検査や入浴ができるようになったとの事例も紹介されました。
 

 

◆社会に戻れる制度設計と伴走支援のための地域連携

 再犯防止や更生支援には、出所した人が地域や社会に戻れる制度設計や、司法と福祉をつなぐ連携機関が必要です。国の政策を民間との連携で実現した事業として、平成21年に厚生労働省所管で定着支援センター設置が始まります。神奈川県では平成22年12月に開設されました。定着支援センターでは、罪に問われた障害者・高齢者の出所後の社会復帰につなぐ「出口支援」を業務としてきましたが、この4月より新たに「入口支援」(受刑の入口の取り調べや司法手続きの段階で福祉支援につなぐ)が導入されています。

 山下さんがお話の中で強調されたことの一つに、信頼関係を築くための工夫があります。どんなに寄り添おうとしても信頼されない事案もあり、丁寧な伴走の過程には壮絶な経験の積み重ねがあることに胸を打たれました。年代や障害を異にする事例への対応は多岐にわたります。加害者であると同時に被害者の側面を持つ人々の痛みの根は想像を超えるほどに深いこと、そして、福祉支援につなぐためのコーディネートやフォローアップ、相談には、人的援助の専門スキルとともに地域の関係機関との連携や市民理解が不可欠だと、改めて再確認できました。

 

第2部:意見交換と質疑応答

 オンライン参加の皆さんと会場参加の皆さんをつないだ意見交換や事例紹介からの考察は、多くの声が寄せられました。

 

 知的障害がある場合のハードルの高さについての質問では、刑事施設収容法で認められている外泊規定に基づき、グループホームでの宿泊体験や作業所見学に取り組んだ事例が示されました。また、現在のコロナ禍の中では見学が厳しいと状況だと課題も浮かび上がりました。

 刑務所の中の方が生きやすい人のために、罪を犯さなくても入れる刑務所を作ればいいのではという意見に対し、アメリカの「ドラッグコート」のように、「矯正」という概念でなく「生き直し」をしていく場をつくる方向への希望が語られました。また、​刑務所が居場所にならないように地域に居場所を作りたいとの思いに対して、「居場所と出番」という運動があるが、大切なのは「ひと」であること、常に横にいてくれる「ひと」「支援者」がいることが大事で、「居場所と出番」と「ひと」がキーワードとして示されました。
 

 

 福祉施設より刑務所の方が障害者に住みやすい側面があるのではという意見には、地域支援の多様性という観点が、例えば、目が見えない人への支援では「音」を工夫するなどの支援の組み立ての工夫が求めれていることが語られました。

 当事者としての経験を語ってくださったのは、広域暴力団の構成員だった方。自助グループにつながり、出所者支援を19年やってこられた経験から、入り口支援の法整備を活用し、刑務所に戻らず障害者福祉サービスにつなげたい思いを語られました。この「入口支援」は、定着支援センターの新しい機能として4月から始まりましたが、各都道府県でやり方が異なること、神奈川県域では検察と観察所と定着と神奈川県の4者が協議を重ねていることが示されました。

 更生支援とは、罪を許すことなのだろうか、忘れてもいいことなのだろうかと悩むことがあるとの意見について、ソーシャルワーカーとしては再犯しないで安心して暮らせること、「犯罪」という表現をしないで暮らせる社会を目指していきたいとの見解が語られました。

 

最後に:山下康さんから

 テーマに「私たちは、なぜ、罪を犯した人を支援するのか」というサブタイトルをつけた意味と、世の中に広がっている「自己責任論」について語られました。ある国の責任者が就任挨拶で「自助、共助、公助」としてまず自分で努力することが求められましたが、そのあとに「排除」がくるのです。自分のことは自分で、という自己責任論です。究極の自己責任論は3つあり、一つ目は自殺、二つ目がホームレス、三つ目が刑務所。全部自己責任論の世界でしょうか。私は決してそうは思いません。資料の最後の頁に「伴走支援」と書きましたが、この「伴走」は「伴奏」にも通じます。互いに学び響きあう支援のあり方を工夫していきたいと思います。

 

 更生サロン1回目は、「地域定着の出口と入口」という定着支援センターの取組を取り上げました。地域や社会に居場所がない人が刑務所に入りたいと願うのは、冷酷な現実です。社会とのつながりが持てない中でどう連携していくのか、定着支援の取組のように制度化された中での支援の輪に学びつつ、私たちにできる連携もあります。事例を通して当事者の思いを受け止める場、こうして立場の異なる人同士で理解を深める機会をつくっていくことも、社会とつながる工夫や可能性を開く芽となります。また、市民社会の大切な視点として、政策提言をしていくことも大切です。山下さんが強調くださったように、「公」が「自己責任論」を持ち出すことの意味や背景を考え、公共の担い手である当事者として声を出していきたいと思います。協働スペースでは、今後も社会と個人のあり方について一緒に考え、官民の連携や知恵を出し合う場面をつくる予定です。ぜひ継続して参加いただきたいと思います。(文:徳永)

 
 

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