【おすすめの一冊】『「ホームレス」襲撃事件と子どもたち いじめの連鎖を断つために』北村年子著

 本著の出版から12年が経過した。巻末の「野宿者襲撃事件の略年表」には、1983年の横浜での殺傷事件を起点に2009年までの襲撃の連鎖が記されている。著者が代表を務める「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」は、翌年以降も続く、襲撃という加害者と被害者の「最悪の出会い」の連鎖を社会に提示している。そして今、SNSでのホームレス差別発信に多くの人が心を痛め、分断の新たな起点としてはならないと、緊急の動きが広がっている。

  他者の居場所を、生きる権利を奪ったのは誰か。人に優劣をつける価値観を蔓延させたのは誰か。それは他人事でない、私自身だと自認するところからしか社会的解決はないと気づかせてくれる。拘置所での面会や手紙をとおして著者が加害者に伝え続けたのは、自尊の回復であった。その背景に、地域や社会の、一人一人の心の中の、ホームレス化がある。自分に価値なしと自棄に至る子どもの日常に、排除を生む家庭や学校や職場がなかったか、そこで「心のホーム」を壊してこなかったか。

 自己への蔑視が他者への苛立ちに連鎖することがある。制御できずに加害につながる場合がある。先ず自分を大切にする、そこから被害者尊重の真の理解が開かれると、著者は丹念に問いかけ続ける。加害者を取り巻く大人の理不尽な言動、その不条理から目をそらさない揺るがぬ姿勢の実録でもある。刑事や裁判官や教育者の社会的職責は権力や世間体や体制維持への迎合ではない、当事者の心の声から社会との、人との関わり方を問い直す。その実践として、川崎では路上に学ぶ「共育」に教師自らが試行を重ね、大阪・西成では子どもたちの夜回り活動をとおして強弱の偏見ではないありのままを感じる関係が築かれている。

 差別や偏見が根深くとも、私たちにできる普遍的な真実がある。心の声を聴き、人間を理解しようとすること。そこに排除の思想は育たない。今は亡き人の声を聴くことも支えとなる。その生きた証、足跡に学ぶとき「生きなおす」意志が刻み込まれるのだと思う。人との間に、心の中に、世の中に、加害と被害の分断を生まないために。今この時の、そして未来への希望を分ち合う一冊である。(文:徳永緑)


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