【イベントレポート】「ディーセント・ワーク」を知ろう:~WORKERS:はたらくを問い直すvol.1〜が開催されました

ゲスト:中尾文香さん(NPO法人ディーセント・ワーク・ラボ)
会 場:ことぶき協働スペース・オンライン 日時:2021年8月31日(日)15:00~16:30


開催趣旨とゲストの紹介

 ことぶき協働スペースによる「 WORKERS:はたらくを問い直す」と題したセミナーシリーズ。インクルーシブな社会の実現のための学びと連携の場づくりを目指すセミナーです。今の時代は就労、雇用、起業、自立支援などにおける多様な働き方、労動観の変遷について関心が高まっています。パラレル・キャリアやディーセント・ワークなど、労働者の権利、職業選択の自由、自己決定権などを重視し、行動や思考特性に応じた取り組みや学びが求められています。それらの基本となる労働法制や社会保障制度の仕組み、働くを問い直すためのいろいろな方法論やその事例を話題として、みなさんとの議論の場をご用意していきたいと思っています。

 その第1回目となる今回は、NPO法人ディーセント・ワーク・ラボの中尾文香さんをゲストにお迎えしてお送りしました。NPO法人ディーセント・ワーク・ラボは、すべての人のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を目指し、特にディーセント・ワークの環境が十分に整っていない、障害のある人の「役割」や「仕事」を、多くのプロの方たちと共につくる活動をしている団体です。

 第1部では中尾さんによる「ディーセント・ワーク」とは何かの説明とNPO法人ディーセント・ワーク・ラボとしての活動の紹介があり、第2部は障害・はたらくなどに関わる業務を担当するスタッフ2名を交えたクロストークの時間がありました。

「オンラインプログラム」でしたが、横浜コミュニティデザイン・ラボのインターンシップの大学生、就労移行支援事業所からの職場実習生、就労継続B型事業所の現職の支援員などが会場で参加しました。

<登壇者プロフィール>

〇中尾文香(なかお・あやか)

博士(社会福祉学)。社会福祉士。香川県高松市生まれ。2016年東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科博士後期課程修了。研究のテーマは、障がい者就労・雇用、QWL(Quality of Working Life)、ディーセント・ワーク、社会課題とCSV。機器のアクセシビリティ調査、保育関連のコンサル、福祉事業所の就労コンサル等に携わった後、2013年にNPO法人ディーセントワーク・ラボを設立し、福祉施設がつくる小物ブランドequalto(イクォルト)事業を実施。2017年より企業を対象とした障がい者雇用に関するコンサル、社会課題、CSV、SDGsなどに関するコンサルをスタートした。その他、研修や講演など幅広く活動を行っている。厚生労働省「障害者の就労能力等の評価の在り方に関する ワーキンググループ(第1WG)」専門アドバイザー 。著書に『障害者への就労支援のあり方についての研究』(風間書房)などがある。


第1部:中尾さんのお話

ディーセント・ワークとは

 SDGsで掲げる開発目標の8番目にある「働きがいも経済成長も」を言い換えるなら、「働きがいのある人間らしい仕事」で、これを目指していこうというのがディーセント・ワークです。今日はディーセントワークを巡る国内の動向や、障害者雇用のサポート事業、調査研究事業を通じて見えてきた、現状と課題などについてお話します。NPO法人ディーセントワーク・ラボは「すべての人のディーセント・ワークの実現」を理念にしていて、1999年のILO(国際労働機関)の提言した「一人ひとりが、どこかのコミュニティーの中で役割があり、本人も他人もその役割を認識していること」をテーマに活動をしています。どう働くかは、どう生きていくかに近いものがあり、それはすなわち社会の中でのディーセント・ワークともいえるもので、生活の充実や豊かさを含めたものを目指していきたいと思っています。

◆「就労継続支援B型事業所」に着目

 主な活動としては、働く環境が整っていない障害のある方に着目し、「就労継続支援B型事業所」の社会的課題、低い賃金・労働環境の未整備・企業の障害者雇用などに対しての解決の手法を考えて活動しています。たとえば障害者の特性を活かした強味や価値にプロの技術・知識・姿勢を加味したり、販路の拡大や研究成果を障害者雇用の現場に応用していく。さらには現場の知見を言語化したり一般化して、新しい価値を作り出しています。そして、手作りにこだわった商品ブランド「equalto」の展開を始めています。

福祉の専門家として障害者雇用のサポート

 障害者雇用を考えている企業に対しては、雇用の導入から採用定着までのトータルサポートもしています。《ポジティブな障害者雇用にみるティール組織》の冊子を作成したり、「思いやりオンラインコミュニケーション」「詩文史上最高の働き方がわかるワーク」(9月発売開始)などの本も書いています。

♯みんなちがうだけど同じ

 障害のある当事者・家族と、社会との間の隔たりを埋めていくための取り組みとして、インクルーシブを体感する「トントゥ フェスティバル」を埼玉県飯能市にあるムーミンバレーパークで今後10年間開催予定です。今年はオンライン(リアル開催は中止)での開催(9/18、19)となります。「得意なこと、苦手なこと、みんなちがうけど、みんな同じチャレンジをして共有し、体感し、発見できたらおもしろい。」という大きな輪が広がった先の目的地、それが「トントゥ フェスティバル」なのです。来年以降も現地開催を予定しています。

第2部:クロストーク(質疑応答)

中尾文香(NPO法人ディーセントワーク・ラボ)
内藤勇次(横浜市ことぶき協働スペース)
鈴木 仁(横浜市ことぶき協働スペース)

内藤:

 利用者によっては就労というより居場所として捉えている利用者も多い。施設側としては工賃を上げたい気持ちと環境を変えたくないという反する気持ちがある。これはおそらくほとんどの事業者で抱える問題だと思う。また利用者の多くは生活保護の受給中であり工賃が上がることで受給金額が減ってしまうなどの問題もあり、なかなかモチベーションが保てない場面もあるのではないか。

中尾

 本来は就労重視でも生活支援重視でもディーセント・ワーク的にみれば同じ。それぞれがそれぞれの立場の中で「役割」を得ることが重要で無理に分ける必要はないと思う。また、従来生活保護は「施されるもの」として存在していたりしていたが、2000年以降は少しづつ変化はしてきている。障害者施設などでは「優先調達推進法」などもあるが、生活保護法だけでなく福祉制度全般においては不具合が生じていて制度設計上の課題はあると思うし、そこは改善して見直していくべきだと思う。

内藤

 基本的に利用者は全員が同じ作業をしていて、単純作業がゆえに細分化することができずそれぞれが持つ個性を生かすことが難しい。障害者施設では「みんな違ってそれでいい」とよくいわれるが、作業工賃単価はみな同じ。同じ作業の中では当然優劣がある。それに合わせ作業工賃単価もみんな違っていいのではないか。これが就労というものに繋がっていく場合もあるのではないか。

中尾

 基本的に工賃は施設ごとに違うし作業内容によっても違う。ベースラインは同じでさらに積み上げ方式をとっているところもある。最初から成果報酬をとっているところもある。これは作業所の成り立ちの歴史(みんなで分け合うという意味)からみても、それぞれの作業所の判断によるしかない。私は少し高いベースライン(3万円程)も目指してから、さらに積み上げ方式を個人的には考えている。今の全国平均工賃は月16000円程度なのでまずはそのベースラインを上げていきたい。

鈴木:

 基本的には生きづらさを抱えてきたことで、力を磨ききれていないので、自身の興味や可能性に気付いていない場合がある。また、自身の障害や特性に気づいておらず、結果的に社会で何となく上手くいかない経験を繰り返している場合もあるのではないか?どうしたら見付けられるか、見付ける機会はどのように設けることが出来るか。または、どう言った社会資源の活用が有効か。

中尾

 どのように自分の特性を見つけるかの回答は実は一つしかないと思っていて、それは「体験・経験すること」なんだろうと。今までは出来るかできないかで判断されるといった社会のシステムだったり環境しかなかったが、現在は社会の考え方も転換期にきていて、個性や特性を活かしていこうという傾向がある。近くにメンター(相談者)や仲間がいて、一度の体験・経験を通して少しずつ自分を知ってゆく。それを繰り返していくことが次のステップにつながる。それは自分一人ではなく、メンターや仲間と伝えあうことで次に活かせるのではないかと思う。

 私自身のことになるが、大学時代に※ソーシャルワークに出会ったことが大きかった。「ものさしがたくさんあること」に触れ、社会の中で困難を抱えながらも「どう生きるか」をボトムアップさせていく。そういった意味ではソーシャルワークとは何かを知ることはとても重要だと思います。

※【ソーシャルワークは、高齢者・子ども・障害者を含む、多様な人々のウェルビーイング(=よい状態、幸せ)を手助けすることをめざすこと。 】

 今までの寿町という地域の中では専門職としてのソーシャルワーカーもいるし、おそらくソーシャルワークを多くの普通の人が実践してきた歴史があるのだろう。常に問題を「自分事」として捉えている。それがとても大切なこと。フィードバックすることも大事。これから必要なものがあるとするなら、おそらく「言語化」だろうと思う。

鈴木

 働きやサービスの価値を高めるための協力者を見つけることが大変で(先方は基本的に何らかの事業者だと思うので、協力できることに限界があり、現実的には、困難に共感してくださるところの次のステップに進みづらい)どうしたら協力・共創してプラットフォームづくりを目指したり真のパートナーを獲得していけるのか?

中尾

 現在のコロナ禍の中であっても学ぶことや気づくことはあり、やはり人それぞれには役割があって、失うものばかりではなくて得たものだってあるはず。コロナが広がった分、リモートワークという仕組みが広がったり、ある意味、市民の力や企業の力も広がってきた。企業の中では※「ESG投資」などといわれており、今はそれをやっていないと投資家が投資をしないといわれている。ただ、社会貢献をする企業が入ることには賛成だが、その結果として活動の主権が企業に移ったり趣旨がゆがめられたりしないように、擦り合わせというプロセスが大事。今後のソーシャルワークでは企業とも交渉する力も必要かもしれない。

※【ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字を取った言葉】

 企業の長期的な成長のためには、この3つの観点から長期的な事業機会や事業リスクを把握する必要があるという考え方が、現在、世界的に広まりつつある。反対に、ESGの観点が薄い企業は大きなリスク抱えており、長期的な成長が期待できないと考えられている。

鈴木

 モノやサービス、そして情報に溢れている現代社会において、いくらストーリーを付加価値として付け加えても、それらを消費してもらいにくい時代だとも感じている。その中で、経済の循環を生み出す為にはどんな工夫が有効なのだろうか?

中尾

 やはり考え方を変えていくことが必要だと思う。時間の取れない企業では難しくても、継続してゆくB型事業所ならできることがあるかもしれない。たとえば、アートなどにもそれは現れていて、大事なことは新しい価値を見出す工夫なんだと思う。モノがあふれている資本主義の中からもきっと新しい価値は見出せる。絶望の中にあっても希望を失わない、そんな希望がもしかしたら隠れているかもしれない、という風に考えている。

内藤:  

 広域に地域作業所の繋がりを持つようなことは可能でしょうか。

中尾

 そういう新しい試みをどんどん増やして挑戦してみることが新しい価値に繋がっていくと思う。失敗してもそのプロセスを楽しみ次の形に活かしたり、カスタマイズしていくことでうまくいくことがあるかもしれない。いろいろなことをしてみることが大事。

 最後に「人が働くということは、それぞれがどんな形であれ役割があるということ」。これがディーセント・ワーク。


 WORKERS:はたらくを問い直すvol.1と題して今回は、中尾文香さんをゲストに迎えて「ディーセント・ワークを知ろう」を取り上げました。支援プログラムやマネジメントのテキスト等の資料とともに就労継続支援B型事業所においてのディーセント・ワークをベースとした、具体的なお話をお伺いする貴重な機会となりました。

「対話を通じた支援者と利用者との信頼関係づくり」、仕事だけではなくもっと広い意味での「一人ひとりが、どこかのコミュニティーやグループの中で役割があり、本人も他人もその役割を認識していること」の大切さ、などを事例とともに紹介していただきました。印象深かった言葉に「すべての人には失敗する尊厳や権利があり、それらをもとにB型事業所で働きがいのある人間らしいしごとを作る」があります。人の幸せは複合的であり多様性に満ちあふれたもののはず。

もちろん人によって幸せの定義や価値観は異なりますが、人が幸せを感じるポイントは多く共通しているものだと思います。そして、よりよく働くこと(ディーセント・ワーク)は、人の幸せに繋がる要素がたくさんあり、こういった視点から「働くこと」を考えてみたとき、新しい働き方の糸口が見つかるかもしれないと思えた、大変素晴らしいセミナーとなりました。

 

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