【イベントレポート】ことぶき人権サロンオンライン 3Days「ホームレスに学ぶ~出会いとつながり~」を開催しました

◆ゲスト:北村年子/稲葉剛/荘保共子(一般社団法人ホームレス問題の授業づくり全国ネット)
◆主 催:横浜市ことぶき協働スペース
◆協 力:ホームレス問題の授業づくり全国ネット(HCネット)

9/17(金)弱者いじめの連鎖を断つ「価値のない人」なんていない
→ Day1. 北村さん YouTubeで公開中
北村年子さん
9/24(金)コロナ禍の困窮者支援の現場から
→ Day2. 稲葉さん YouTubeで公開中
稲葉剛さん
10/1(金)「お身体、大丈夫ですか?」夜回りなんてしなくていい社会にしたい
→ Day3. 荘保さん YouTubeで公開中
荘保共子さん
各回、アンケートも受付中です! URLは、各回の動画の「説明文」「コメント欄」にあります。

 
 

開催趣旨

 ことぶき人権サロンは、暮らしのなかにある偏見や差別を問い直し、寿地区で大切にされてきた人権の視点に学ぶ対話の場です。今回は「『ホームレス』に学ぶ~出会いとつながり」をテーマに選びました。

 1983年、横浜で起きた路上生活者襲撃事件を起点に、ホームレス問題は社会や教育のあり方を世に問い続けてきました。寿地区でもこの事件をきっかけに、なんとかしなければと活動を始めた方がおられます。それでも、ホームレス状態にある人への偏見は根深く、今なお、排除や襲撃につながりかねない状況が私たちの身近なところにあります。

 そこで、ことぶき協働スペースでは、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット(HCネット)」の協力を得て、「HCネット」の皆さんが社会や学校や子どもたちに発信してきた大切なメッセージを読み解き、共に考える3回シリーズの人権サロンを企画しました。

  
 

Day 1:弱者いじめの連鎖を断つ「価値のない人」なんていない

 初回のゲストは、「HCネット」共同代表の北村年子さん。ノンフィクション作家、自己尊重トレーニングの講師としても活躍しています。
 はじめに、「HCネット」の名前に込められた願い、構成するメンバーの多様な立場(ジャーナリスト・野宿者支援活動家・ドキュメンタリー制作者など)が紹介されました。2008年の設立後、「Homeless」状態にある人々と子どもたち「Children」の温かな絆づくり、そして、全ての人が安心できる居場所「心のホーム」を持てる社会づくりの実現をめざして、襲撃事件をなくすための授業を実践していきます。教育の現場で誰でも授業ができるようDVDと講演録のセット教材を制作し、全国各地の学校で活用されてきました。そして、今年8月に発生したネット上の差別発言に対し、「HCネット」は迅速にネット上で対応し、YouTubeでDVDの無料公開を行いました。ホームレス問題の真実を社会に伝え、誰の命も尊重されねばならない、襲撃の連鎖を断たねばならない危機感があったからです。

 
 この教材制作の舞台は、大阪・釜ヶ崎を拠点とする「子どもの里」です。この児童館館長であった荘保共子さん(Days 3ゲスト)との出会いから、北村さんの釜ヶ崎への愛着とホームレス問題の社会的探求が始まります。そこで、北村さんは、夜回りを続ける子どもたちの目の輝きや、ホームレス状態にある人の優しさや逞しさに触れます。さらに、襲撃事件の取材をとおして、加害少年の「ホームレス化」した心に寄り添い続けた記録として、問題が起こる社会的構造や教育の本質を問う著作『ホームレス襲撃事件と子どもたち いじめの連鎖を断つために』を世に出します。

 この著書の巻末資料に一部記されているように、「HCネット」は1983年横浜での事件に始まる「野宿者襲撃・略年表」により、繰り返されてきた事件の概要を社会に伝えています。襲撃で尊い生命を奪われた人は27人。死して名前の分かる人生への追悼の思いを込めて、亡くなった方々のお名前を刻んでいると語られました。それぞれの事件で加害者が語った差別意識には、大人社会の価値観が反映されていることが浮かび上がります。加害者に共通した特徴に、「ホームレスには価値がない、価値ない人が相手なら大人は叱らない、警察も動かないし問題にもならない」という大人の偏見が背景にあります。警察や学校の不適切な対応が事件の土壌となり、襲撃の連鎖につながった「社会の共犯性」を示す事例は、遺族への丁寧な取材をとおして得られた悲痛な証言として示されました。

 
 路上生活者への襲撃の実態に関する調査(2014年東京都内347人への聞き取り)によれば、4割の人が襲撃を経験し、その加害者の4割近くが子ども・若者です。「まさか死ぬとは思わなかった」という命の重さを知らない子どもが取返しのつかない加害事件を起こす、子どもの無知に無関心なままの大人社会ではいけない、教育の現場で襲撃を止めねばならないと「HCネット」は活動します。東京都墨田区が全区立の小中校で路上生活者に学ぶ特別授業を実施した結果、当時襲撃件数が10分の1に減少したとの新聞報道は、教育の力を示すエビデンスとして希望をつなぐものです。

 北村さんは、中学生への授業で取り上げる「ホームレスとは?」の意味解説から、野宿状態への変化と社会との関係、極限の貧困状態における社会的排除の多重性、「ハウスレス」と「ホームレス」の違い、現代の貧困問題の特性(経済+関係性+知識や情報の貧困)、また、傍観が生むいじめの構造まで、無知や無関心に一人一人が気づくことの大切さに言及しました。そして、ホームレス襲撃を生む心理がどこから生まれるのか、自身が開発した「自己尊重トレーニング」の手法を交えて解析しました。それは、子どもたち自身の内省の言葉からも、日本の子どもの幸福度や人との関わり方を示す統計からも、また心理学の分析をとおしても、「自律的自尊感情」を育む大人の責任の重大性とともに、経済優先の価値観で失われるものに気づかねばならない社会のあり方を示すものとなりました。

 最後に、誰もが安心してありのままの自分でいられる場所、「ありがとう・助けて」と言える「社会のホーム」づくりへの希望が語られ、参加者の共感は、深く胸に響き、アフタートークでの活発な意見交換につながりました。

 
 

Day 2:コロナ禍の困窮者支援の現場から

 第2回のゲストは稲葉剛さん。一般社団法人つくろい東京ファンドの代表理事、認定NPO法人ビッグイシュー基金の共同代表としてホームレス問題に関わり、HCネットの理事を務めています。27年にわたり生活困窮者支援を続けてきた活動の原点には、新宿駅西口地下の「ダンボール村」の現実、そして強制排除を強行した政策の現実がありました。
 1991年のバブル崩壊後、建築等の日雇労働が激減し、東京の路上生活者が急増します。94年4月に東京都により「ダンボール村」が強制排除され、96年1月には「動く歩道」の工事を理由に第二次排除が行われます。不法占拠として行政が排除しても、居場所のない人は移動するのみ。当事者にとっては何の問題解決にもならない現実に寄り添い、支援策の必要性について行政との対話を続けます。NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの設立により、アパートの保証人提供や幅広い生活困窮者相談を開始し、路上生活から脱するためのサポートやアフターフォローに取り組みます。


 2008年のリーマンショックに端を発した派遣切りや若者の貧困、ワーキングプア状態に対応するため、2014年、「つくろい東京ファンド」を設立し、空き家・空き室を活用した住宅支援を展開します。基本的人権である住まいを無条件で提供する「ハウジングファーストモデル」の実践は、当事者本人の「住まい」に関わる決定権を尊重するもので、不動産業者の理解と協力により、2020年2月時点で都内25室の住宅提供につながりました。
 2020年4月以降、コロナ禍による失業で追い詰められた人たちへの支援を「つくろい東京ファンド」の緊急出動チームや、40団体で構成する「新型コロナ災害緊急アクション」の緊急支援で個別に対応していきます。「仕事がなくなった、家賃が払えない、食べることができない」という声は、多様な職種の人々、若者や女性、外国人に広がり、感染拡大が貧困拡大に連動し、かつてない生活苦が多くの人を襲いました。コロナ禍は路上生活にも大きく影響します。図書館や飲食店の休業により居場所がなくなり、炊き出しの休止や建築・土木の仕事の激減につながり、また、テレワークによりビジネス街に人通りが減り「ビッグイシュー」の販売も苦戦します。こうした状況に、不動産会社の協力やクラウドファンディングを通して、個室シェルターの増設、ペットと暮らせる部屋を開設。また、通信手段を本人負担ゼロで確保する「つながる電話」プロジェクトにより、190人に社会つながる電話を貸与しました。ビッグイシュー基金「おうちプロジェクト」は不動産業者や家具架電店と連携して全国207世帯、237人の入居を支援しています。

 
 コロナ禍は路上生活にも大きく影響します。図書館や飲食店の休業により居場所がなくなり、炊き出しの休止や建築・土木の仕事の激減につながり、また、テレワークによりビジネス街に人通りが減り「ビッグイシュー」の販売も苦戦します。こうした状況に、不動産会社の協力やクラウドファンディングを通して、個室シェルターの増設、ペットと暮らせる部屋を開設。また、通信手段を本人負担ゼロで確保する「つながる電話」プロジェクトにより、190人に社会つながる電話を貸与しました。ビッグイシュー基金「おうちプロジェクト」は不動産業者や家具架電店と連携して全国207世帯、237人の入居を支援しています。

 コロナ禍による生活困窮者の緊急事態。行政の制度のどこが当事者にとって使いづらいのか、五輪開催中のホテル確保、住宅確保給付金の要件緩和や支給期間の延長、生活保護申請の扶養照会の運用改善などのソーシャルアクションは、「自助」も「共助」も限界の中で「公助」を機能させる不可避の政策提言でした。公的なセーフティネットの課題を整理し、実現可能な政策に向けた提言とともに、市民自身の貧困に対する偏見を変換させていく必要が語られました。

 参加者とのアフタートークおいては、著書『貧困パンデミック 寝ている「公助」を叩き起こす』への感想、排除や偏見を生み出す社会の空気を変えていく一歩、怒りを緩やかな連携に力に変えていくことなど、市民ができることを意見交換しました。すべての人の生きる権利を保障する社会の実現に向けて、行政を動かし、世論を動かし、また仕組みやプロジェクトを動かしてきたNPOの実践は、いつでも当事者とともにあることの大切さ、そして、私たち一人一人が自らの価値観や眼差しを問われていることを気づかせてくれました。

 
 

Day 3:「お身体、大丈夫ですか?」夜回りなんてしなくていい社会にしたい

 最終回のゲストは、荘保共子さん。大阪・釜ヶ崎で40年以上にわたり、子どもの居場所づくりの活動を継続されています。この活動に「子ども夜回り」が組まれたきっかけは、1983年の横浜で起きた少年達による殺傷事件でした。荘保さんを突き動かしたのは、事件の衝撃以上に、この事件に対する大人から発せられた命を軽視する発言でした。そして、路上生活の苦しみや痛み、その背景について釜ヶ崎の子ども達さえ理解していないことをアンケートを通して知り、夜回り体験と学習会を始めます。

  学習会をとおして、子ども達は横浜の須藤泰造さん(1983年の襲撃事件で命を落とされた方)の人生に出会います。また、おにぎりや味噌汁手作りし、配りながらの対話をとおして、路上の人とつながる力、お互いが大切な存在であることを学んでいきます。

 沖縄の言葉で「ヌチドゥタカラ」(命こそ最も大事)の精神で続いている活動です。子ども達は、苦しみを体験した沖縄や海外の視察、そして「子どもの権利条約」の学習をとおしても、話を聴くこと、現場を知ることの意味を心に刻んていきます。沖縄の学習では、寿町に縁の深い加藤彰彦(野本三吉)さんとの交流の話も語られました。

 
 人は生まれてきただけで祝福される存在であるのに、社会や政治はなぜ放っておくのか。大人の対応への意見表明であることが、子ども達が歌う夜回りの歌「なんでよまわりするの」(みなみらんぼう作詞作曲)の歌詞にも示されています。5番まである歌詞の3番~5番の歌詞の一部を抜粋します。

おっちゃんは なにももってないのに なんでこんなにやさしいの
なんで そんなおっちゃんを じゃまものにするんだろう 
いまの日本はまちがってる みんな へんなかざりばかり
どうして ほんとうのことを みようとしないんだろう

おっちゃんの しあわせってなんだ 
よまわりなんか しなくてもいい社会にするには みんなどうしたらいいんだろう
それは じぶんでかんがえて そして みんなでかんがえて 
おっちゃんの しあわせをゆめみて いっしょにがんばろう

ぼくらの しあわせってなんだ みんな おなじにんげんだ
みんな おなじなかまだぞ みんなの しあわせさがそう
いまの ぼくらにできるのは よまわりすることしかないけど
こころをこめて おっちゃんと おはなししたいな

 子どもの里から届いた歌声が、この人権サロンでも披露されました。各フレーズの冒頭は、「なんでよまわりをするの/なんでおにぎりをわたすの/なんでみそしるをわたすの/なんで外で寝なあかんの」と、社会への「なんで」が復唱されます。また末尾で繰り返されるのは「とてもちむぐるしい」。沖縄の言葉で「心・肝まで苦しく痛い」という他者の痛みへの共感が響きます。

 荘保さんも、北村さん(1dayゲスト)も、子ども達に学ぶことの深さや広がりに驚かされ、その共感がHCネットの活動として全国に発信される原点にありました。大人が社会の本当を見ていないという子ども達の指摘は、北村さん、稲葉さんが強調された「社会の共犯性」につながります。アフタートークでは、命と人権への軽視につながる価値観でなく「生きる」を中心に据えた人と人とのつながり、「夜回りをしなくていい社会」のホームづくりについて、また、寿地区に若い世代が抱いている思いや理解、ことぶき協働スペースでこれから取り組む事業について語り合いました。

 
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 ホームレス問題とは何か、実態を知らないまま偏見が生まれる背景がどこにあるのか、私たち大人の責任について理解を深めたことぶき人権サロンオンライン 3Days。各回80名前後の方が地域を越えてオンライン上に集ってくださいました。ゲストの皆さんの実践に惹きこまれ、自らに問われたことを一緒に考えることができました。ことぶき協働スペースでは、今後も、困難に直面する当事者の思いを理解し、子ども達の真剣なまなざしに応え、すべての人の「生きる権利」を尊重し合える協働に向けて、対話と学習の場を継続していきたいと思います。(文:徳永 緑)